カカオ豆と砂糖だけで作られたシンプルなチョコレートを食べ比べると、カカオ豆によって、味や香りがまったく異なることがわかります。
しかし、チョコレートを食べる私たちが知ることができるのは、パッケージに記されたカカオ豆の原産国(さらに詳しく地域や農園について触れられていることも)、カカオの比率(カカオ70%など)程度。
産地がわかったとしても「魚沼産のコシヒカリ」のように、品種名を見かけることはほとんどありません。カカオにも数えきれないほどの品種があるのですが「○○種」と言い切れるカカオ豆になかなか出会わないのには理由があります。
代表的な4品種
カカオの品種といえば、クリオロ種、トリニタリオ種、フォラステロ種、アリバ種を加えた4品種がよく知られています。現在はゲノム解析が用いられ、10種類以上の品種の分類が報告されているのですが、ここでは代表的な品種を紹介します。
ただし、カカオ豆の味や香りに影響を与える要因は、栽培地域や土地、栽培方法、発酵、そのシーズンの気候など多岐にわたるため、品種だけでどんなチョコレートになるのか言い切ることはできません。しかし、チョコレートを理解するのに役立つかもしれません。
クリオロ種
上品で豊かな芳香で、良質なよいカカオ豆として知られています。渋みのもととなるポリフェノールが少ないためマイルドで優しい風味が特徴です。収量が少なく、カカオ豆は小さめ。病害虫に弱くて育てるのが難しいと言われています。産地は、ベネズエラ、メキシコ、マダガスカルなど。
フォラステロ種
「高カカオチョコレート=苦い」のイメージはこの品種。ポリフェノールをしっかりと含み、力強いカカオ感と苦みや渋みが特徴です。
収量が多く、病害虫にも強く、育てやすいことから世界で生産されるカカオの80〜90%を占めています。スーパーやコンビニのチョコレートのほとんどに使われています。産地は、ガーナやコートジボワールなど。
トリニタリオ種
クリオロ種とフォラステロ種のハイブリッドで、両方の良い特徴を持っています。
力強いものから繊細なものまで、個性的で豊かなフレーバーを持ちながらも、病気や害虫に比較的強く、収量もクリオロ種より優れています。産地は、トリニダード・トバゴ、ドミニカ共和国など。
KAISEI chocolate laboratoryで取り扱っているカカオ豆の多くはトリニタリオ種です
アリバ種(ナシオナル種、アリバナシオナル種)
エクアドル原産の品種で、華のある上品な香りが特徴のカカオ豆です。フォラステロ種に分類されるものの、他のフォラステロ種に無い、繊細な芳香を持つため区別して取り扱われています。
エクアドル以外の地域で育てる試みも行われましたが、アリバ種特有の華やかさがあまり感じられないと報告されており、とても興味深いです。
カカオを判別するのは難しい
カカオは交配しやすい生き物です。自然交配により、ひとつのカカオポッドの中に複数の種類のカカオ豆ができる、ということがあります。意図的な品種改良も行われるため、日々多種多様なカカオが生まれ、栽培されています。
また、国や地域によって、歴史的・文化的にも、カカオがもたらされた経緯やタイミングは様々です。ほとんどの小さな規模のカカオ農家では、自分たちが育てているカカオがどのような品種なのかを把握していないことも多いと言います。
カカオの多様性を楽しむ
様々な品種があることをご紹介しましたが、やっぱり食べてみないことには、そのチョコレートの味を知ることはできません。季節のくだものを楽しむように、新鮮な気持ちで食べてみるのがいいと思います。
特にこの20年ほど、ゲノム解析による品種の解明をはじめ、南米の遺跡でカカオ栽培の証拠が発見されたり、日本でもカカオ由来の美容成分カカオセラミドがニュースになったりと、カカオについての多方面からの研究が進んでいます。次は、どんな驚きが待っているのかわくわくしています。
参考文献
- 「チョコレートの手引」蕪木雄介 (雷鳥社)
- 「ダンデライオンのチョコレート カカオ豆からレシピまで ビーントゥバーの本」トッド・マソニス、グレッグ・ダレサンドレ、リサ・ヴェガ&モリーゴア (新泉社)
- 「チョコレートを極める12章」佐藤清隆(幸書房)